在宅療養の生活をイメージしてみよう
在宅医療を導入したら、高齢者は毎日、家でどのように過ごすようになるのか。また、家族はどのように療養生活を支えていけばよいのか― 皆さんが最も気になるところでしょう。
そこで次に、在宅療養をしている高齢者のケースをいくつか紹介します。本人と家族がどのように生活しているのかを知れば、リアルな在宅療養を思い描きやすくなるはずです。
そこで次に、在宅療養をしている高齢者のケースをいくつか紹介します。本人と家族がどのように生活しているのかを知れば、リアルな在宅療養を思い描きやすくなるはずです。
ケース1 認知症が現れ始めた高齢女性Aさん
〈A さん(74 歳女性)のプロフィール〉
軽度の認知症により、買い物や調理が難しくなってきているので、訪問介護で生活支援を行うことにしました。またデイサービスを利用し、身体機能や認知機能の維持を図ります。医療面では、糖尿病の服薬管理をし、定期訪問診療を月2 回行って経過を見ていくことにしました。
〈1 週間のケアプラン〉
- 病名(既往症)…軽度認知障害、Ⅱ型糖尿病、白内障
- 要介護度…2
- 経過と療養状況…夫婦二人暮らしだったが、夫が6 年前に他界。現在は一戸建て住宅に一人暮らし。認知症により室内の整理整 頓、買い物、調理、通院などがだんだん難しくなってきた。
- 家族の状況…子どもは娘が二人。車で約20 分のところに住む既婚の長女が、週に2 回ほど実家を訪れて生活を支援している。
軽度の認知症により、買い物や調理が難しくなってきているので、訪問介護で生活支援を行うことにしました。またデイサービスを利用し、身体機能や認知機能の維持を図ります。医療面では、糖尿病の服薬管理をし、定期訪問診療を月2 回行って経過を見ていくことにしました。
〈1 週間のケアプラン〉
〈主治医のコメント〉
認知症の比較的早い時期に、訪問介護やデイサービスで認知症に詳しいスタッフが関わることで、ご本人もご家族も安心した様子。
認知症の進行もあまり見られず、自宅で安定して過ごしています。
認知症の比較的早い時期に、訪問介護やデイサービスで認知症に詳しいスタッフが関わることで、ご本人もご家族も安心した様子。
認知症の進行もあまり見られず、自宅で安定して過ごしています。
ケース2 脳梗塞の後遺症で車椅子生活になったBさん
〈B さん(81 歳男性)のプロフィール〉
高齢の妻の介護負担を軽減するため、デイサービスを週3 回、訪問看護を週1 回入れ、リハビリを継続して、立つ・座るなどの機能の維持を目指すことにしました。入浴はデイサービスで済ませます。
定期訪問診療は月2 回、服薬管理のほか、脳梗塞の再発予防のため、エコー検査で動脈硬化の状態をチェックしています。
また、脳梗塞の後遺症で嚥下力がやや低下しており、誤嚥の防止のための嚥下リハビリと口腔ケアにも力を入れています。
〈1 週間のケアプラン〉
- 病名(既往症)…脳梗塞、高血圧。2 回目の脳梗塞の後遺症で右半身の麻痺が残り、言葉が出にくい状態に
- 要介護度…3
- 経過と療養状況…76 歳で最初の脳梗塞を発症。このときは対応が早かったこともあり、大きな後遺症なく回復。81 歳になって二度目の脳梗塞を発症し、急性期病院で治療を受けたものの手足の麻痺などの後遺症が残る。リハビリ病院に移って3 カ月間のリハビリを行い、退院とともに施設入所も考えたが、本人の希望もあって在宅医療を検討。
- 家族の状況…77 歳の妻とマンションで二人暮らし。妻は料理などの家事はおおむねできるものの、加齢による体力低下から、車椅子になった夫の在宅介護に不安が大きい。二人の息子は独立して近県に住んでいるが仕事があり、介護を手伝えるのは月1、2回、週末のみ。
高齢の妻の介護負担を軽減するため、デイサービスを週3 回、訪問看護を週1 回入れ、リハビリを継続して、立つ・座るなどの機能の維持を目指すことにしました。入浴はデイサービスで済ませます。
定期訪問診療は月2 回、服薬管理のほか、脳梗塞の再発予防のため、エコー検査で動脈硬化の状態をチェックしています。
また、脳梗塞の後遺症で嚥下力がやや低下しており、誤嚥の防止のための嚥下リハビリと口腔ケアにも力を入れています。
〈1 週間のケアプラン〉
〈主治医のコメント〉
高齢者の二人暮らし家庭で、体格の大きい男性が要介護になったとき、高齢の妻が一人で介護を行うのはなかなか大変なものです。
こういうときは、やはり介護保険サービスを上手に活用してください。B さんの奥さんも当初は在宅介護に不安を訴えていましたが、最近は車椅子の操作にも慣れて、気持ちに余裕が出てきたようです。
高齢者の二人暮らし家庭で、体格の大きい男性が要介護になったとき、高齢の妻が一人で介護を行うのはなかなか大変なものです。
こういうときは、やはり介護保険サービスを上手に活用してください。B さんの奥さんも当初は在宅介護に不安を訴えていましたが、最近は車椅子の操作にも慣れて、気持ちに余裕が出てきたようです。
ケース3 パーキンソン病で、全面的な生活支援が必要なCさん
〈C さん(83 歳女性)のプロフィール〉
パーキンソン病が進行していて全面的な介護が必要な状態なので、訪問介護で食事などの生活を支援(1 日1~2 回)。同時に、身体のこわばりが進行するのを抑えるために訪問看護、訪問リハビリ、訪問入浴などで在宅ケアを充実させることにしました。
また、高齢の夫の排泄介助の負担を減らすため、排尿は尿道カテーテルを留置。またパーキンソン病では便秘になるので、排便については看護師がケアをすることにしました。要介護度が高く、ベッドで過ごす時間も長いため、褥瘡予防についても指導を実施。
〈1 週間のケアプラン〉
- 病名(既往症)…パーキンソン病、自律神経障害、大だい腿たい骨こつ骨折
- 要介護度…4
- 経過と療養状況…8 年前にパーキンソン病を発症。当初は通院で治療していたものの、次第に歩行が不安定になり、2 年前に転倒して大だい腿たい骨こつ頸けい部ぶ を骨折。手術後は、リハビリ病院や療養型病院などで入退院を繰り返す状態に。高齢になった夫も腰痛などで病院に付き添うのが大変になり、長男が地域のケアマネージャーに相談して在宅療養へと変更。食事や排泄は介助すれば身体を起こして行えるものの、移動は車椅子で、生活全般において介護が必要。
- 家族の状況…86 歳の夫と戸建て住宅で二人暮らし。共働きの長男夫婦と孫が車で1 時間ほどの地域に住む。日常生活の見守りは夫が行い、ケアプランの相談などには長男も同席して方針を検討。
パーキンソン病が進行していて全面的な介護が必要な状態なので、訪問介護で食事などの生活を支援(1 日1~2 回)。同時に、身体のこわばりが進行するのを抑えるために訪問看護、訪問リハビリ、訪問入浴などで在宅ケアを充実させることにしました。
また、高齢の夫の排泄介助の負担を減らすため、排尿は尿道カテーテルを留置。またパーキンソン病では便秘になるので、排便については看護師がケアをすることにしました。要介護度が高く、ベッドで過ごす時間も長いため、褥瘡予防についても指導を実施。
〈1 週間のケアプラン〉
〈主治医のコメント〉
パーキンソン病のような難病で入退院を繰り返しており、入院生活が長いという状態になると、本人もご家族も「もう自宅で暮らすのは無理」と考えてしまいがちですが、在宅医療や介護サービスを組み合わせれば、十分に対応可能です。パーキンソン病は特定疾患に指定されており、介護・医療の費用は公費の補助があります。
パーキンソン病のような難病で入退院を繰り返しており、入院生活が長いという状態になると、本人もご家族も「もう自宅で暮らすのは無理」と考えてしまいがちですが、在宅医療や介護サービスを組み合わせれば、十分に対応可能です。パーキンソン病は特定疾患に指定されており、介護・医療の費用は公費の補助があります。
ケース4 がんの終末期で在宅生活を選んだDさん
〈D さん(68 歳男性)のプロフィール〉
D さんは一人暮らしのため、24 時間対応型の訪問介護・看護で夜間も含めて1 日に3、4 回、介護・医療のスタッフが訪問をする体制で在宅生活を支えることにしました。
医療では定期訪問診療を週2 回と、必要に応じた往診を行い、がん終末期の疼痛コントロールを実行。それと同時に在宅看取りの希望についても本人、家族(姉)に相談し、意思の確認を行いました。
〈1 週間のケアプラン〉
- 病名(既往症)…肺がん
- 要介護度…5
- 経過と療養状況…定年後に契約社員として働いていた職場の定期健診の際、胸部X 線で要精密検査になり、精密検査を受けたところ、肺がんとの診断。治療に専念するため退職し、手術療法や抗がん剤などの化学療法を行ったものの、1 年ほどで再発。抗がん剤治療もなかなか効果を得られず、骨転移も確認されるように。症状が悪化するなか、自宅で緩和ケアを受けたいという本人の希望により、在宅医療を開始。
- 家族の状況…独身で、以前は実家で両親と暮らしていたが、死別してからは実家でそのまま一人暮らし。70 代で既婚の姉が近県に住んでおり、姉とその娘(姪)がときどき見舞いに訪れている。
D さんは一人暮らしのため、24 時間対応型の訪問介護・看護で夜間も含めて1 日に3、4 回、介護・医療のスタッフが訪問をする体制で在宅生活を支えることにしました。
医療では定期訪問診療を週2 回と、必要に応じた往診を行い、がん終末期の疼痛コントロールを実行。それと同時に在宅看取りの希望についても本人、家族(姉)に相談し、意思の確認を行いました。
〈1 週間のケアプラン〉
〈主治医のコメント〉
D さんは、在宅医療スタート時はがんの治療でかなり消耗した状態でした。住み慣れた自宅に戻り、好きなものを口にして自分のペースで生活できるようになると一時期は顔色も良くなり、「やっぱり自宅はいいよ」と在宅生活を楽しんでいました。
後半は疼痛も強くなりましたが、鎮痛薬の使用により、亡くなる数日前まで家族と会話もでき、穏やかな最期を迎えました。
D さんは、在宅医療スタート時はがんの治療でかなり消耗した状態でした。住み慣れた自宅に戻り、好きなものを口にして自分のペースで生活できるようになると一時期は顔色も良くなり、「やっぱり自宅はいいよ」と在宅生活を楽しんでいました。
後半は疼痛も強くなりましたが、鎮痛薬の使用により、亡くなる数日前まで家族と会話もでき、穏やかな最期を迎えました。